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2009年06月09日

口語で書けば、レニィヴー


雨女



「ねえ、木造校舎に行ってみない?」
 雨降りの日に限って登校して来る、普段は不登校の隣の席の少女に声を掛けられた。

 梅雨時の中学校。
 今の時間割りであるはずの数学は担当教師に訃報が届いて、突然自習になったとクラス委員から告げられていた。

 僕と彼女は一番後ろの席だったので、クラスメートに見つからないように、そっと自習中の教室を抜け出し、マイナスドライバー一つで簡単に外せる、鍵の掛かった木造校舎へと忍び込んだ。
 薄暗い木造校舎の教室は、埃っぽくて、古い木の香りがする。
 ガランとした、今ではもう使われることのなくなった室内には、幾つかのイスや机が置き去りにされていて、ぼんやりとした湿度の高い静寂が、濃密に押し込められていた。
 外の雨音。そよ風に木の葉がこすれる音。小さな虫達が木陰でうごめく音まで聞こえて来るような錯覚がする。
 彼女と僕の、呼吸の音だけが、このクラシカルな建造物の全ての時間を動かしていた。


 僕は静けさに堪え兼ねて、唐突に声を出して彼女に尋ねた。
「どうして雨降りの日しか学校に来ないんだい?」
 その声は、突然動かされた思春期の僕ののど仏から、変に高い調子で室内に押し出された。
 でも、眉をひそめた彼女はその問いには答えもせず、逆に僕に向けて問い返した。
「ねえ。学校に来るのって好き?」
「いや…… 」僕は、なんとなく反射的に答えた。「どちらかと言えば、うざったいけど」
「私も同じよ、爽やかに晴れた日にまで、不愉快なことはしたくないわ」
 彼女はまるでニュートンの定理を証明するかのように、そう答えた。
「でも、雨の日なら余計不愉快になるんじゃ……」
「雨の中を歩くのは、それほど不快じゃないよ。ただ、そのあとにコンクリートの固まりの一室に押し込まれて、その空気の中で蒸れていく自分の体には、惨めなものを感じるけど……」
 そう言うと彼女は、僕の前で夏服のブラウスのボタンに手を掛けるとあっと思うまもなく上半身を下着だけの姿で露わにした。
 僕は唐突な事態に、驚き固まった。

「脱がないの?」
「えっ?」

 僕が何とも答えられずにいると
「気持ち悪くないならいいよ。別に」
 と彼女は不仕付けに告げ、スカートの留め具に手をかけ、誇りっぽい木製の床にそのままふわりと落とした。

「雨音が気持ちいいわね」
 そう言うと、固まったまま身じろぎしない僕を尻目に、脱ぎ捨てた制服をハンガー代わりに、教室に置き捨てられた机に掛けると、自身も机の上にちょこんと飛び乗るように座り、窓の外の雨降りの風景を眺めた。


 しばらく窓の外を眺め続けた彼女は、突然僕に向き直り、不思議な青色を湛えた瞳で、僕に尋ねた。
「あなた、時々授業中に私のこと見てるわよね?」
「……」

 それについて僕は何も言えないでいた。たしかに事実僕は彼女を盗み見たりしていたのだが、それは何か口に出来るような感情からではなかったし、そのことを誰かに知られることも誤解を招かせるようなことであるかのような気がしていた。

「ねえ、この下着の中、どうなってるか見てみたい?」
 彼女は無表情で、無機質に僕に尋ねた。
「そ、そんな。別に僕は……」

 あわてて何か口走ろうとした僕を押し留めるように、彼女は優しく口を挟む。
「知ってるよ。あなたは服を脱ぎ捨てたりしないし、自ら進んで私に触れたりもしない。あなたがそんなつもりじゃないことは知っている」
 そう口では言いながら、彼女の手はそのブラジャーを静かに上にずらせた。

 小ぶりな彼女の乳房が目に飛び込んできた。それは薄暗い教室の中で、とても白く光を反射した。
 そして、その隠されていた彼女の胸元には無数の痣や傷があった。

 僕が、それに確かに気付いた事を確信すると、彼女は上に引き上げていたその手で下着を元のように戻した。

 彼女の瞳に見つめられながら僕は尋ねた。
「誰かにされたの?」
 首を振り、彼女は答える。

「いいえ。自分でつけるのよ…… 私にはストレスの逃がしかたがわからなくて、日々の中で押さえつけられないものが自分の中に膨れ上がってきて、とても怖くなって、自分を失くさないように、怯える手で、必死に自分に痛みをあたえるの…… そうすると、少し落ち着くの」

 そう言って、少しだけ口元を弛めた。
 彼女の笑った顔(恐らくそれが彼女の笑顔なのだろう)を見たのはそれがはじめてだった。

「ねえ、手を握ってもらっていい?」
 そう言って彼女は机の上に座ったままお姫様のように僕に右手を差し出した。

 僕は彼女に近づき緊張したまま、彼女の手の平を上と下から両手で挟むように包んだ。
「……あったかい」
 そう呟くと、彼女はその姿勢のまま、窓の外に視線を戻した。

 彼女の温もりは、怯えた時の小動物のそれのようで、時折小さな不整脈みたいに震えた。


「私は、ときどき口の中だけで、ストレイシープって呟くの。……ストレイシープ……ストレイシープ。あなたは? 普通の人も何かに迷っているって感じることあるのかしら」
 僕は、普通の人扱いされたことに不機嫌になってぶっきら棒に答えた。
「あるよ。誰でもそうだよ、悩まない人間なんていやしないさ」
「……そっか。……ストレイシープ。……ストレィ……。」


 そして、そのまま二人は黙り込んだ。
 永遠の静寂が訪れたようにも感じた長い長い4時限目。それを終わらせる唐突なチャイムの音が本校舎の方から鳴り響くまで、二人はじっと窓の外を眺め続け、時折僕は彼女を盗み見たりもした。

 二人で木造校舎を出て、雨降りの中、屋根付きの渡り廊下を本校舎に向けて歩いているとき、彼女はそっと僕に耳打ちする。

「あなたが頑なに守った正義は、この先どんな女の子さえも救うことはないわ」
 それは、鼓膜に吐息が掛かるくらいの小さな小さな囁きだった。


 もし僕があのとき、彼女の真似をして自分の衣服を脱ぎ捨てていたら……
 彼女と僕の関係に、どんな変化があったのだろう。



 それ以来、雨降りの日も彼女は学校に来なくなった。
 
 卒業式の日、僕は彫刻刀をもって、その木造校舎に忍び込み、小さな羊の絵を二匹、使われていない黒板の影の木の板に彫り付けた。



 もちろん、そんな僕の情緒が彼女を救いはしないということを、今では僕も知っている。





とにかくPCを何とかし直さなきゃいけないんだけど……
SP2,3の配布サイトってぐぐれないのかなぁ
ていうか今入れてる奴を外部HDにコピーしてリカバリーすればいいのか?
その辺解説してくれるサイトは無いのかな。

なんか、思考もレニィヴー。。。


じゃ、また^^
© 早浪討矢 | Comment(0) | 日々のこと
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